わ る い こ



サイケデリック静雄ネタばれ。深く考えたら負け。
ツガサイとデリサイ。


「デリックはわるいこじゃないの」

そう言って、サイケは泣いた。

「デリはずっとひとりぼっちだったの。おれには津軽がいたけど、デリにはおれしかいなかったのに、おれがにげたのがわるいの。わるいこはサイケなの。おれが、津軽をすきになっちゃって、デリはもっとひとりぼっちになっちゃったから、おれがわるいんだ…デリはわるいこじゃないの…津軽、ごめんなさい、ごめんなさい…」

はらはらと涙が落ちた。
抱きしめてやりたい細くて小さな体は、別の男の腕の中にいる。
雪のような白と花のようなピンク。サイケと同じ配色の彼は、しかし顔は津軽の生き映しに近い。
兄であり同時に弟なのだと、サイケは言った。
ベースとなるプログラムの構成はサイケと同じで、本体そのものはサイケより少し先に作られたのだそうだ。
だが、完成間近の頃にどうしても消えないバグが発生し、サイケが完成すると同時に開発はストップされ、パスワード制のロックで隔離されていた。
デリックに抱きしめられたサイケは、周囲の空間を巻き込んで歪み拉げ、モザイクをかけたように色が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになっている。
サイケと同じ色をした、しかしまるで違う未完成のプログラムは、触れている個所からサイケを破壊する。少し指に力を入れるだけで、サイケを構成するプログラムが簡単に壊れた。抱きしめると、耳を塞ぎたくなるような音を立てて、サイケの細い身体が軋み、歪んだ。
電子空間上を漂うデータの具現しかないAIにとってデータの破壊は、すなわち死であり、同時に消滅である。
他のプログラムをその手で触れるだけで改変し、破壊し、消してしまう。本人に悪意があろうとなかろうと、触れてしまうだけでそうなる――それが、デリックのバグだった。

「サイケを離せ」

津軽は、自分がこんなにも怒れるのかと、驚いていた。
いつだって津軽はサイケに優しくしようと思っていて、そうしてきたつもりだった。サイケが笑うように…サイケが幸せであるように…と。

「サイケを傷つける奴は、誰であろうと俺は許さない」

サイケ以外を見ようともしなかった瞳が、うろんげに揺れて、初めて津軽を映す。
無機質な瞳に、温度はない。ただ、サイケを抱きしめる腕の強さが、彼の執着そのもので、彼の心を構成する全てだった。

「さいけは、おれの」

古い蓄音器を通したような声だ。
触れたものを壊すバグは、彼自身をも破壊しているという。

「おまえはさいけのなに」
「おれはさいけがすきだ」
「おまえもさいけがすきだ」
「でも、さいけはひとり」

ゆらめく、薄紅の瞳は瞬きひとつせずに、津軽を見ている。
花のようなピンク色の、瞳。津軽が愛してやまない、サイケと同じ色の。
しかし、凍える冬のような冷たさを持っていて、―――その眼差しが、明確な敵意を持って、津軽を見た。

「だから、おまえは 敵 だ」

敵意ではない、殺意だ。
津軽、にげて――…サイケの悲鳴が響いた。







デリサイって、地中海あたりのお惣菜みたいな響きで、美味しそうだと思いました。

ブラウザバックプリーズ

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